生成AIで社内に眠る「非構造化データ」活用 BoxとMicrosoftが増やす“AI利用の選択肢”とは
生成AIの進化が止まらない。2024年5月に米OpenAIが提供を開始した「GPT-4o」は、テキストに加えて音声や画像による入力が可能で、回答の速度が上がり、回答精度も前モデルより正確になった。進化する生成AIを業務改革に生かしたいと考える企業は多いだろう。
GPT-4oをはじめとする最新の生成AI技術をいち早くサービスに組み込んでいるのが、OpenAIに投資をしている米Microsoft 。そして、OpenAIの技術やマイクロソフトのAIアシスタント機能「Microsoft Copilot」(以下、Copilot)などと連携して、企業内に眠る膨大な非構造化データを活用するサービスを提供しているのが米Boxだ。
最新の生成Al技術がさまざまなサービスと連携することによって、業務にどのようなインパクトをもたらすのか。Box Japanの安達徹也氏と日本マイクロソフトの吉田雄哉氏が対談して、データ活用の最先端を探る。(左から)Box Japan 上席執行役員 チャネル営業本部長 兼 アライアンス・事業開発部長 安達徹也氏、日本マイクロソフト マイクロソフトテクノロジーセンター センター長 吉田雄哉氏
マイクロソフトが進める「AIトランスフォーメーション」
――生成AIが急激に進化している中で、2024年5月13日にOpenAIがGPT-4oの提供を始めました。GPT-4oにはどのような特徴があるのでしょうか。
※以下、敬称略。
吉田: 一点目は性能面の向上です。回答速度がかなり速くなりました。マイクロソフトが5月に開催した開発者向けイベント Microsoft Buildでは、従来よりも6倍速いと表現しています。もう一点はマルチモーダルモデルになり、言葉だけでなく、音声や画像を使って新たなコンテンツを生成できるようになったことです。
利用費用が前モデルの半分程度で済むことも大きな特徴です。GPT-4oの提供開始と同時に、マイクロソフトは生成AIアプリケーションを構築する「Azure OpenAI Service」と連携して、リーズナブルにGPT-4oの機能を使えるようにしました。
安達: マイクロソフトやOpenAIの取り組みは、ビジネスでAIを活用するシーンを増やすことにつながりますよね。自然言語とAIモデルを組み合わせて、チャットでコンテンツを生成できるCopilotは、どのようなコンセプトを持った技術なのでしょうか。
吉田: Copilotは日本語では副操縦士という意味で、分かりやすく「デジタルパーソナルアシスタント」と言っています。ポイントは、依頼者本人が見ることができる情報を基にコンテンツを生成すること。それと、自分がやっているメインのタスクをアシストできることです。
企業の情報は公開されているものだけではなく、クラウドサービスやITシステムの中に分散していたり、データ単体で多数存在したりしています。これらのデータと担当者の間を取り持って、データに基づいたアクションを起こすというイメージです。これまで企業が進めてきたDXのパワーを引き出す意味で、私たちは「AIトランスフォーメーション」と表現しています。
生成AI活用の“選択肢”があることが重要
――マイクロソフトは、2024年5月21日には、Team CopilotやAgentsも発表しました。
吉田: Team Copilotには、議事録の作成や会議のファシリテーションといったチームの活動をサポートする機能があり、Copilotがチームの一員のような動き方をします。Microsoft Copilot Studioを使って、Copilotをカスタマイズしたり独自に開発したりできるAgentsは、年内にリリースする予定です。オリジナルのCopilotを作成できる他、長期間のビジネスプロセスの自動化などが可能になります。自分で決めた仕事を外部に委託して、作業が終わると報告を受けるというイメージです。
安達: パーソナルなアシストからチームの業務をサポートするところまで、生成AIができることのレベルがかなり上がってきたという印象です。BoxもマイクロソフトやOpenAIの最新技術との連携を進めています。
Boxは、OpenAI社のChatGPTのAPIを統合した「Box AI」によって、Boxに格納されたデータからインサイトを導き出したり、コンテンツを作成したりする機能を2023年5月に発表し、同年11月からベータ版を提供してきました。2024年3月からはBox AIの正式なリリースと同時に、Azure OpenAI Serviceとも連携して、先進的なAIモデルをBoxで利用できるようにしています。
さらに、2024年5月には「Box for Microsoft 365 Copilot」をリリースしました。Microsoft Teams でCopilotを活用し、Boxに保存されたドキュメントについて要約や質問ができます。マイクロソフトのパートナー戦略は、どのような方針なのでしょうか。Box for Microsoft 365 Copilotのイメージ(Box Japan提供資料より)
吉田: Copilotだけで全てができるわけではありません。他社のクラウドサービスに情報を格納している企業も当然あります。いろいろなサービスと連携できないと、Copilotを利用したいと考える企業が困りますよね。そこで、ご賛同いただいたパートナー企業に仕組みを提供して、機能の開発もできるようにします。Copilotのエコシステムを作るイメージですね。
安達: Boxも同じです。Boxでできることの全部を他のソリューションができるわけではなく、他のソリューションが得意としている領域を全てBoxがカバーできるわけでもありません。お客さまには領域に合うソリューションを見極めて、選択していただくことが重要だと思っています。
吉田: 機能として重複していても、いろいろなソリューションがあることには意味があります。カレンダーのアプリは驚くほどたくさんありますよね。もしもカレンダーに求める要件がみんな同じであれば、アプリは2つか3つあれば済むはずです。でも、実際には皆さん必要に応じて使い分けています。
それぞれに価値があるからこそ、選択もできるし、自分に合わせた使い方ができます。BoxにはBoxの強みがあるし、マイクロソフトにはマイクロソフトの強みがある。その中で自分たちにとって最もメリットがあるものを判断、選択していただく。選択肢があるということが、ユーザーにとって重要だと思っています。コンテンツ活用の方法に選択肢がある場合のイメージ(Box Japan提供資料より)
使いにくい非構造化データをどう活用する?
――AI活用について、Boxはどのような戦略を持っていますか。
安達: 当社は独自の大規模言語モデルを持っているわけではありません。サービスのコアは、企業の情報をクラウドプラットフォームでしっかりお預かりして、お客さまにご活用いただくことです。
吉田: 企業が持つ膨大なファイルの中には、価値があるものもあれば価値になりにくいものもあります。AIで処理するためにはまずそのファイルを整理する必要があり、多くの企業にとって大きな課題になっています。この非構造化データを賢く処理するのがBoxの特徴ですよね。
安達: 吉田さんにおっしゃっていただいた点が、まさにBoxが進めているAIの活用です。Boxに格納する前の情報の多くがメールやチャットなどのフロー情報、つまり非構造化データです。Box AIによって、この非構造化データをAIで活用しやすいように整形した上でBoxに格納できます。Boxに格納することで使いたいファイルを特定しやすくなり、特定したファイルからCopilotやBox AIを使って、コンテンツの作成、検索、要約などを行えます。Boxが進めるAI活用のイメージ(Box Japan提供資料より)
Boxが最も得意としているのは、情報のアクセス権の管理です。サービスそのものが安全なことはもちろん、ユーザーごとにアクセスできる情報や編集、閲覧権限の管理を細かくコントロールできます。AIでコンテンツを生成する際に情報ソースを管理できる点は、多くの企業に興味を持っていただいています。
吉田: 「情報が生まれたところから、管理されて、消費されるところまで」を、私は情報のライフサイクルと呼んでいます。情報のライフサイクル全体を、なるべくコンピュータの仕組みでカバーできた方がいいですよね。
さまざまな業務プロセスがあって、誰かが入力して終わり、参照して終わりでは、業務の流れが途切れてしまいます。このセパレートされた仕事を連続させることは、今までのシステム開発ではやりにくかった部分でした。
その断絶した部分を生成AIが補完してくれます。情報の整理や生成をAIに任せつつ、模範的な回答しかできないAIに代わって人間が創造性を発揮することを頑張ればいいのではないでしょうか。
生成AIの変化に追随することが必要 非構造化データ活用を支援
――ChatGPTの登場から現在までの間に、生成AIに関する企業からの相談内容は変わってきましたか。
吉田: 当初はAIのことが分からないといった相談が多かったですね。何ができるのかを勉強するフェーズでした。それが、今は「仕事のどの場面で使えるのか」「どういう価値を生み出せるのか」を考えるフェーズに入ってきました。会社として価値を出すためにAIを活用する方向にシフトしていると思います。
安達: Boxでもお客さまのご要望に応じていろいろな機能連携を進めていますが、現状では間違いなくChatGPTやCopilotとの連携に関するニーズが最も多いですね。
吉田: 企業の皆さんには生成AIの速い変化に追随していただいて、ぜひ実践で使っていただきたいですね。何かプロジェクトを進める際には、長々とやっていてもあまりいい結果は出ません。GPT-4oを活用することで業務時間が大幅に短縮される、または今までやっていた工夫が必要なくなるケースがかなり出てくるでしょう。これは使わないともったいない。これからはプロジェクトを行う際に、生成AIの活用を意識することが重要になるのではないでしょうか。
安達: 生成AIによって、非構造化データを活用する環境も整ってきました。今、一歩を踏み出して非構造化データから宝の山を掘り当てるのか。それとも社内に眠る9割の情報を活用しないままでいるのか。この判断によって、企業の業績にも大きく差が出てくると思います。
Boxはこれからもマイクロソフトとの連携をますます強めながらユーザーの選択肢を増やし、企業が非構造化データから価値を生み出すお手伝いをしていきます。